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「先生、歌もやってみようかな♪」~85歳の新しい挑戦~




「歩くのが少しでも楽になればいいな。」



今年の初め、85歳の女性がアレクサンダーテクニークのレッスンを始められました。


40代の頃の手術の影響で足が扁平足となり、長年歩きづらさを抱えてこられたそうです。


歩くと足が痛くなる。

転ぶのも心配。

外出もだんだん億劫になってきた。


だからこそ、


「いつまで生きるかわからないけれど、生きている間は健康でいたい。」


そんな思いで、週1回のレッスンを始められました。


最初の目標は、とても現実的なものでした。


少しでも歩きやすくなればいい。

転倒予防になればいい。


それだけでした。

歌の話は一度も出てきませんでした。


レッスンを重ねるにつれて、少しずつ変化が現れ始めました。


歩くことへの不安が減ってきた。

散歩が楽しくなってきた。

外出する機会も増えてきた。


そして何より、ご本人が驚いていたのは、


「今までできなかった姿勢ができるようになった。」


ということでした。


長年の癖で難しかった動きが、少しずつ楽にできるようになる。

身体が変わっていくのを、自分自身で感じられるようになってきたのです。


13回目のレッスンの時でした。

その方が、少し照れくさそうにおっしゃいました。


「先生、せっかくだから歌もやってみようかな。」


実はその方、小さい頃は「ひばり」と呼ばれるほど声が美しかったそうです。

ところが高熱が長く続く病気を経験し、それ以来、思うように声が出なくなってしまいました。


歌はいつしか人生の後ろの方へ置かれたままになっていました。


そこで、その日から少しだけ発声も始めることにしました。

ほんの数分の、小さなスタートです。


そしてレッスンが終わった後。

教室のピアノを見ながら、その方がぽつりと言いました。


「ピアノもやってみようかな。」


私は思わず笑顔になりました。


つい数か月前まで、


「歩くのが少しでも楽になれば。」


とおっしゃっていた方です。


それが今度は歌。

さらにピアノ。


新しいことに挑戦したい気持ちが、次々と湧いてきているようでした。


私は、この変化がとても興味深いと思っています。


歩きやすくなったから前向きになった。

それだけではないように思うのです。


今までできなかったことができるようになる。

身体が少しずつ変わっていく。

自分自身が成長していることを実感する。


すると人は、


「もう歳だから。」


ではなく、


「次は何をやってみようかな。」


と考えるようになるのかもしれません。


アレクサンダーテクニークは、姿勢を良くするためだけのものではありません。

身体を整えるためだけのものでもありません。


本来の自分の力を取り戻し、


「まだできるかもしれない。」


という自信を思い出していく学びでもあるのです。


85歳の女性が、歌に挑戦しようとしている。


そしてピアノにも興味を持ち始めている。


その姿を見ながら、私は改めて思いました。


人は、成長を実感すると前向きになる。


そして、その成長に年齢は関係ないのだと。


さて、次はどんな挑戦が始まるのでしょう。

私も楽しみに見守っています。

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