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『雑音が聞こえます』と言っていた生徒さん、続編

8月23日
読了時間: 3分

以前、このブログに、


「違和感があります」

「雑音が聞こえます」

「本当にこれでいいんですか?」


と言っていた生徒さんのお話を書きました。


あの生徒さん、その後どうなったかというと――。


すっかり、その声で歌っています。


しかも最近、別の合唱の場で、


「低音が出ますね」

「ぜひバスをやってもらえませんか」


と言われたそうなのです。


本人も嬉しそうに、その話をしてくださいました。


そもそも私が最初にこの生徒さんの声を聴いたとき、


「この人、本当はもっと低い声なんじゃないかな?」


と思っていました。


レッスンを続けていくうちに、身体の使い方が変わってくる。


するとある日――


ズズズズズ……。


地面の底から響いてくるような、立派な低音が出始めました。


私としては、


「おお。出てきた、出てきた」


という感じだったのですが、


ご本人はそうではありません。


「なんか……違和感があります」


はい。


「雑音が聞こえます」


雑音。


「本当にこれでいいんですか?」


かなり疑われています(笑)。


それまで自分が聞いていた声とは、あまりにも違ったのでしょう。


私が「バリトンか、もしかしたらバスかもしれませんね」と言っても、

当初は正直、半信半疑だったそうです。


ところが、


その「雑音」は消えるどころか、だんだん育っていきました。


低音が出る。


響く。


そしてとうとう、いつものレッスン室の外でも、


「低音が出ますね」

「バスをやってもらえませんか」


と言われるようになったとか。


「先生がバリトンとかバスなんじゃないかって言っていたときは、最初は半信半疑だったんですけど……」


そんな話をしてくださったので、私は思い出しました。


「ああ、そういえば最初の頃、“雑音が聞こえます”って言ってましたよね」


「最初はずいぶん違和感があったみたいですけど、もう慣れましたね。

こっちがスタンダードになってきましたね」


すると生徒さん。


「え? そんなこと言いましたっけ?」


……言いましたよ!!(笑)


あんなに心配していたではありませんか。


「違和感があります」

「雑音が聞こえます」

「本当にこれでいいんですか?」


全部言いました(笑)。


でも、これって実は、とても面白いことだと思うのです。


人間にとっての「普通」は、案外あてになりません。


長い間使ってきた身体。長い間聞いてきた自分の声。


それが「自分にとっての普通」になります。


だから身体の使い方が変わって、今までとは違う声が出てくると、

最初はそれを「変だ」と違和感を感じることはとても自然です。


ところが、その新しい使い方がだんだん自分のものになってくると――

今度は、そちらが「普通」になる。


そしてついには、


昔の自分が何を変だと思っていたのかすら、忘れてしまう。


「そんなこと言いましたっけ?」


この一言を聞いたとき、私は思わず笑ってしまいました。


でも同時に、


「ああ、本当にこの声が、この人の中で“普通”になってきたんだな」


と思いました。


人が変わるというのは、こういうプロセスを踏む物だと思います。


あれほど不思議だった声が、今では自分の声になっている。


そして今日も、レッスン室には立派な低音が響いています。


――かつて「雑音」と呼ばれていた音が(笑)。



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